2022年12月14日〜2023年1月19日まで実施された、神戸市地球温暖化防止実行計画の改定案に対するパブリックコメントについて、当会から意見を提出しました。
P1 (3)世界・国の動き
パリ協定・グラスゴー気候合意でめざしている1.5℃目標達成のためには、カーボンバジェットの考えに基づく目標設定、対策が重要である。とりわけ2020年から2030年の10年間に排出削減対策を加速させる必要があると明記するべきである。
P2 神戸市の温室効果ガス排出量
「なお、2017 年度から 2018 年度にかけては、市内大規模工 場の一部移転により、産業部門における温室効果ガス排出量が大きく減少している。」としているが、具体的な数値で示す必要がある。削減は主に神戸製鋼所の高炉休止による影響と思われるが、その削減量と現状の対策による削減効果が検証できなければ、現状の対策で十分かどうかを判断することが難しい。とりわけ、高炉休止の跡地に、新たに大型石炭火力発電所が立地することから、市民に対する丁寧な情報提供と説明が必要不可欠である。
たとえば、「神戸発電所3-4号機からの排出は最大692万t-CO2、1-2号機から●●●万t-CO2の排出があるが、発電部門は市域からの排出量としてカウントしない。」など、明記し、市民に対して発電所による環境影響と本計画に含まれない理由を説明する必要がある。
P4 神戸市のカーボンフットプリント
P13 重点施策1脱炭素型ライフスタイルへの転換
カーボンフットプリントによる消費ベースで排出を認識することが市民の行動変容について重要とされている。しかし、間接排出を用いることにより、最終消費先である市民(消費者)へ、排出の責任を転嫁するという面がある。そもそも、商品・サービスの提供を受ける、消費者がとり得る選択肢は限られており、できるだけ上流部分(事業者側)における対策が重要である。そのうえで、市民に対する情報開示を行い、環境配慮行動への呼びかけが必要である。
たとえば、神戸発電所3−4号機が稼働することで、年間最大693万t−CO2が排出される。市民一人ひとりが意識的に、省エネや節電等の環境配慮行動をとったとしても、その削減効果がかき消されてしまう。それほどまでに石炭火力発電所の悪影響は大きい。したがって、カーボンフットプリントによる消費ベースで排出を見るだけでは不十分である。現状のエネルギー供給体制を含め、直接排出と比較することが重要である。そのうえで、神戸市は行政の役割として、市民の削減行動が無駄にならないよう、各事業者に対する排出削減策の要請ならびに、市民に対する情報開示を促すべきである。こうした取り組みを行うことで、市民はどのようにすることで、温暖化対策に貢献する最も効果的な方法はなにかを認識することにつながると考えられる。
P7 (8)目標
2030年60%以上削減としているが、高炉休止による削減効果を明記し、削減の内訳を丁寧に説明しなければ、温暖化対策が不十分であっても、十分に進んでいると、誤った認識を形成してしまう恐れがある。2019年時点で、36%削減のうち、高炉休止がどの程度あって、これまでの対策による削減量と比較できるようにしなければ、対策への危機感を弱めてしまうことから、丁寧な情報提供と説明が必要である。こうした説明がなければ、市民と共に気候危機に対する認識を共有する妨げになることも考えられる。
P19重点施策2 水素エネルギーの利用促進
カーボンニュートラル燃料として、水素とアンモニアが紹介されているが、エネルギー部門における地球温暖化対策としての“切り札”として描くことには、問題がある。水素利用は、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきとされており、用途を特定したうえで、必要量、供給体制等を検討する必要がある。
たとえば、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は、2022年1月に公表した報告書の中で、水素利用のあり方について「水素は製造、輸送、変換に多大なエネルギーが必要で、水素の使用がエネルギー全体の需要を増大させる。したがって、水素が最も価値を発揮できる用途を特定する必要がある。無差別的な使用は、エネルギー転換を遅らせるとともに、発電部門の脱炭素化の努力も鈍らせる。」と指摘している。
ほかにも、国際エネルギー機関(IEA)が発表した2050年までのCO2排出ネットゼロに向けたロードマップ「Net Zero by 2050」において、技術別の累積排出削減量として、太陽光、風力、電動車による削減への貢献度が高いことが示されている。一方で、CCUSや水素は実証/試験段階かつ削減の貢献度が低いとされている。
また、現在、供給されている水素のほとんどは、化石燃料を改質した「グレー水素」である。水素製造時の排出量まで含めて考慮されなければ、地球温暖化対策として有効に機能するとは限らない。計画においては、製造時の環境負荷について、「コラム〜色のついた水素〜」で紹介されており、化石燃料由来で製造過程にて発生するCO2を回収・地中貯留などすることで大気中へのCO2排出ゼロとなる「ブルー水素」について触れ、「神戸市において「グリーン水素」の割合が増えるように取り組んでいく。」とされている。しかし、ブルー水素についても、欧州では単にCCSを用いて排出削減策を講じているだけでは不十分とされ、推進や政策的な支援の対象としないとされている。ただ単に、日本政府が推進しているから、神戸周辺に水素関連の企業が集積しているからを理由に、全方位の誤った水素利用戦略を神戸市が追認する必要性はない。
さらに、発電部門においては、アンモニア利用も検討されているが、水素と同様の問題を含んでいる。たとえば、100万kWの石炭火力発電所で20%混焼した場合でも、製造段階でのCO2排出を含めると、わずか4%の削減にしかならない。現状で、高コストであり、技術的に十分に確立していない技術に、過度に期待や依存をすることで、緊急性のある排出削減策が遅れてしまうことが懸念される。すでに実用化されている、再生可能エネルギーに注力することを最優先する必要がある。
P23 重点施策3 電動車の普及促進
電動車の普及促進は、地球温暖化対策として有効であることから、防災機能と合わせて記載されている計画案の方向性は望ましいものである。しかし、FCVについては水素を必要とすることから、重点施策2でも指摘した、他に脱炭素化の手段がない分野に優先して使うべきかについて、検討する必要がある。
近年、バッテリー技術の進展に伴って、コストの低下、充電時間の短縮などが見られるようになってきた。こうした点を踏まえると、FCVが移動分野を担うことが適切かどうかについては、慎重に見極める必要がある。また、EVであっても、FCVであっても共通して言えることは、いかに排出が少ない・ゼロの方法で製造・発電されているかが重要である。したがって、重点施策4 再生可能エネルギーの拡大は、エネルギー供給、およびカーボンフリー燃料の製造、いずれにとっても極めて重要な意味を持つといえる。
P26 重点施策4 再生可能エネルギーの拡大
再生可能エネルギーの導入は、エネルギー部門の脱炭素化において有効であり、さらなる普及が望まれる。神戸市は住宅用太陽光の導入件数が政令市20市中、第4位とのことだが、現状の普及ペースで、2030年に国目標の2倍の導入量を実現することは可能なのかについて、バックキャストで政策評価が行われていないように見える。川崎市では、2050年脱炭素社会の実現を見据えて、2050年に93.6万kWの達成に向けて、2030年に33万kWの導入が必要と試算している。そのうえで、これまでの実績を踏まえると、約2倍の導入スピードが必要としている。そのために、太陽光発電の設置義務化を建築メーカーに対して求める条例が検討されている。神戸市においても、住宅用太陽光の設置義務化や、公共施設の建て替え等に際して、導入が最大限に促されるよう、新たなルールを整備することを通じて、再生可能エネルギーの普及に強いシグナルを発信することを検討するべきである。また、神戸市として、再生可能エネルギー100%を、どの時期に目指すのかなど、具体的な目標を掲げたうえで、公有施設に使用する電力調達を再エネに限るなど、作る後押しと並行して、市内一事業者の消費者の立場として、強いメッセージを発する仕組みづくりが必要不可欠である。
P30 重点施策5 産業の脱炭素化の促進
神戸の温室効果ガス排出量の半分近くを占める産業・業務部門の脱炭素化の必要性は、神戸経済の行く末を考えるうえで、重要である。そのうえで、RE100、TCFDへの賛同の動きから、サプライチェーンを含む排出量への注目が高まっているとしている。スコープ1は、(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼等))、スコープ2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、スコープ3(スコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出))とされている。こうした動向を踏まえると、今後、スコープ3の取り組みが増加すると考えられ、対応に取り組む事業者が増加することで、市内中小企業の取り組みも重要となると分析している。しかし、スコープ3を重視するのであれば、原材料の調達、電力の排出係数を大きく上昇させる石炭火力発電所をはじめとする火力発電所の影響は、大きなマイナス要因となる。たとえば、神戸発電所1-4号機からの排出は、売電先である関西電力のスコープ1・2・3の全てに影響が及ぶ。その結果、神戸市が計画において重要としている市内中小企業の取り組みに影響を与える。長期的な影響かつ、広範囲に及ぶ火力発電所の立地に際し、神戸市が真剣に向き合ってきたのかどうかが問われる事態となっている。市内に立地する4基の石炭火力発電所について、早期に稼働停止を求めていくことが、立地自治体の責務であり、市内中小企業の環境対策に大きく貢献することが期待される。繰り返しになるが、水素・アンモニア混焼は、技術的に確立しているとはいえず、コストが高く、削減への貢献度が低いので、製造方法など、どのようなスキームで行われているのかを厳格にする必要がある。
P34 重点施策6 二酸化炭素の吸収・固定
二酸化炭素の吸収・固定については、大前提として温室効果ガスの排出削減である「緩和」を最大限に努力したうえで、検討されるべきものである。しかしながら、重点施策の内容は、排出削減策が最大限実施される状況と言える状況にはない。また、取組内容として記載されているもので、どの程度の規模で、どれほどの排出削減策があるのかについて、具体的な数値について一切の記述がない。吸収・固定効果を定量的に評価することができない。今求められている2030年までの大幅な排出削減につながる施策であるとはいえないことから、行政として注力すべき対策とはいえない。こうした、本来必要な排出削減策を十分に示さず、さも効果のあるように装って計画に記載することは、市民に誤った情報が伝わる恐れがあることから、望ましい施策ではない。
その他:計画策定に関する意見
今回の計画策定においては、神戸市環境保全審議会にて議論が進められ、2022年3月頃に骨子案が神戸市HP上にて確認された。その後、審議会において4月から8月にかけて、学識経験者や専門家、事業者から科学的・専門的な知見・助言を受ける有識者勉強会が全8回開催された。そのうち3回が水素を取り扱うもので、水素への期待が見て取れる。しかしながら、有識者勉強会の詳細な資料は公開されておらず、報告の主体も神戸市環境局のほか、環境省、国交省などの省庁、事業者が中心であり、多様なアクターから報告を受け、議論が行われたとは言えない。地球温暖化の問題は、世代間格差を含むことから、委員の構成にあたっては、次世代の意見を広く取り入れ、議論を進める必要性がある。にもかかわらず、今回の計画策定には、そうした点が考慮された形跡がない。議論の期間も短く、神戸市当局の意向とスケジュールが最優先されており、市民不在の議論が続いていたと言える。
現在、計画策定の際には、パブリックコメント以外にも、住民を無作為抽出し、情報提供と議論を通じて気候変動対策について話し合う会議として、「気候市民会議」が欧州のいくつかの国、地域で試みられ、広がっている。日本においても、札幌市を皮切りに、川崎市などでも実施され、政策提言につながっている。こうした熟議を通じた意見形成、提案によって、脱炭素社会への転換を図るべきである。