【締切1/16】神戸市地球温暖化防止実行計画の改定案に対する意見(2026/01/15)

【7頁】削減目標の認識について

「世界全体で1.5℃目標と整合的で、2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、2035年度、2040年度に、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指すこととしている」と記載されているが、現状の削減目標に対する過大な表現となっている。

IPCC 第6次評価報告書 統合報告書においては、1.5℃目標実現(50%)のためには、2019年比でそれぞれ、2030年43%、2035年60%、2040年69%とされている。これについて、表1において比較した。

表1:IPCC、神戸市、国の削減目標(2030年、2035年、2040年)比較
表1:IPCC、神戸市、国の削減目標(2030年、2035年、2040年)比較

まず、国の目標値は、2019年比に換算すると、いずれもIPCCの科学的知見から提示された数値を下回っている。また、神戸市の削減目標も同様に比較すると、2040年目標こそIPCCと同じ数値となるが、2030年、2035年はIPCC目標を下回り、不整合となった。しかし、留意しなければならないのは、IPCCから示されている数値は世界全体での削減目標値であり、先進国である日本、その自治体である神戸市においては、より野心的な削減目標が必要である。したがって、科学的知見からは、国目標は1.5℃目標と整合的であるとは言えず、神戸市の温暖化対策計画案における削減目標を見直す必要がある。該当箇所については「国目標と削減目標は整合しているが、IPCCが示す1.5℃目標とは不整合であり、削減目標の上積みが必要である」と正確に明記するべきである。

【7頁】削減目標の設定、対策のあり方について

「神戸市においても、国の目標設定を踏まえ、2050年度排出量ゼロから、2019年度実績を起点としてバックキャスティングにより各年度の目標を設定した。さらに、部門ごとの削減見込量と具体的な施策を積み上げた。」との記載がある。しかし、本計画案は、バックキャスティングの手法とフォアキャスティングの手法が混在しており、市民にとって分かりにくいものになっている。

 

①目標ラインの策定(形式上のバックキャスティング)

2050年のゴールから逆算し、計算上の「あるべき削減経路」を引くフェーズ。

ゴール(2050年度):「温室効果ガス排出量実質ゼロ」を絶対的な到達点として固定。

起点(2019年度):実績把握が可能な直近年度をスタート地点に設定。

経路(直線的削減):2050年ゼロに向けた直線的な経路を引き、国の中間目標を踏まえ、以下の値を機械的に設定。

・2030年度:60%削減(2013年度比)

・2035年度:70%削減(2013年度比)

・2040年度:80%削減(2013年度比)

 

②施策の具体化(実態としてのフォアキャスティング)

現状からの積み上げで、2030年度の目標数値に帳尻を合わせるフェーズ。

BAU(現状推移)の算定: 2022年度の状況を起点とし、追加対策を講じない場合の2030年度排出量を8,490千t-CO2と推計。

削減見込量の積み上げの考え方と数値:

・国ベース:国の計画に基づく、電力の低炭素化や省エネ等による削減量。

・市独自:神戸市が上乗せする追加施策(再エネ導入支援、行動変容等)による削減量。

・対策推進ケースの算出: 上記を「積み上げた」結果、2030年度の排出量を4,957千t-CO2まで抑制可能と試算。

・積算の意味:BAU(8,490千t)と目標値(4,957千t)の差分である3,533千t-CO2を「2022年度から2030年度までの8年間の積み上げ施策」によって埋める構造となっている。

 

本計画案は、2050年からの逆算(バックキャスティング)で目標値を設定したとしているが、実際の施策立案プロセスにおいては、2022年度時点の状況を起点としたBAU(8,490千t)に対し、実現可能な施策を積み上げるフォアキャスティング手法がとられている。

 

特に、2022年度から2030年度までの短期間の積み上げ(3,533千tの削減)に終始しており、実質的には「2030年までの短期的なフォアキャスト」となっている。これでは、形式的な「バックキャスティング」と呼ばざるを得ない。現在の説明では、市民にバックキャスティングについて、誤解を招く恐れがあるため、バックキャスティングの文言を削除し、本計画案が「現状の延長線上の積み上げ(フォアキャスト)」であることを明記するべきである。

 

③削減目標算定プロセスの透明性について

2030年度の排出量目標は、2013年度排出量12,392千t-CO2から60%削減として算定されており、その結果は約4,957千t-CO2となる。一方、計画案に示されているフォアキャスティングによる「BAU-対策推進ケース」の2030年度排出量も、同じく約4,957千t-CO2と、ほぼ完全に一致している。しかし一般に、2050年排出量ゼロからのバックキャスティングにより設定した目標値と、個別施策を積み上げて算定した対策推進ケースの結果が、数値としてほぼ一致することは考えにくい。本来であれば、両者には一定の乖離が生じ、その差をどのように埋めるのかが政策検討の対象となるはずである。

この一致は、対策推進ケースにおける削減量が、あらかじめ設定された2030年目標値に合わせて調整されている可能性を示唆するものである。削減目標の実効性と信頼性を担保するためにも、BAUケースおよび対策推進ケースの前提条件、算定手順、ならびに市独自施策による削減量の調整過程を、より詳細に開示することが必要である。

 

④積み上げ対策の問題点 電力排出係数への高い依存度

積み上げで示されている各部門の削減目標において、電力からの排出係数の改善が占める割合を確認したところ、2030年の削減目標に占める削減量のうち、約2割は電力排出係数の改善によるものである。部門別では、産業部門、業務部門では、5~6割が電力排出係数の改善(2030年目標0.25kg-CO2/kWh)による削減効果が計上されている。

しかし、電力排出係数の改善は、市が直接コントロールできる施策とは言い難く、目標達成の観点からは不確実性を伴う。したがって、2030年目標を確実に達成するためには、市が主体的に実施できる施策による削減を、より一層上積みすることが必要不可欠である。

なお、関西電力は2024年に運転可能な原子力発電所の全てにあたる7基を稼働させたが、電力排出係数は、0.396kg-CO2/kWhとなっていることから、0.25kg-CO2/kWhの目標を満たす道筋は困難な状況にあると推察される。

⑤2030年に60%削減の背景にある要因への説明が不足

本計画案には、「2017年度から2018年度にかけて、市内大規模工場の一部移転により産業部門の排出量が大きく減少している」との記載がある。これは、神戸製鋼所の第三高炉休止に伴う産業構造上の変化を指していると考えられる。同高炉の年間排出量は約280万t-CO₂と推計されており、これは神戸市の2013年度排出量(12,392万t-CO₂:本計画の基準年)の約20〜25%に相当する、極めて大きな規模である。このような状況を踏まえると、2030年度に掲げられている60%削減目標のうち、神戸製鋼所の高炉休止という外部要因がどの程度寄与しているのかについて、政策的削減効果と明確に区分して示す必要がある。こうした大規模な排出削減要因が、政策による削減と混同されたままでは、市民は「どの対策によって、どれだけ排出量が削減されるのか」という基本的な情報を把握することができず、気候政策に関する本質的な議論が行いにくくなる。むしろ、その寄与度を明示することは、市民が市域の温室効果ガス排出構造を理解するうえで不可欠であり、環境情報コミュニケーションとしても重要である。

なお、高炉跡地には、65万kW×2基、合計130万kWの石炭火力発電所が建設され、年間約587万t-CO₂を排出している。また、神戸製鋼所が保有する4基の石炭火力発電所からの排出量は、合計で約1,164万t-CO₂に上るが、これらからの排出は本計画の排出削減対象には含まれていない。

国の算定ルールにより、高炉からの排出は市域からの排出として算定される一方、発電所からの排出については、所内利用分のみが市域排出として計上される。その結果、1,164万t-CO₂のうち、対象となっているのは約62.4万t-CO₂にとどまっている。神戸市は、気候危機が一層深刻化する中で、こうした巨大な排出源である石炭火力発電所の立地を認めてきた責任を有している。市民に対して誠実な温暖化対策計画を策定し、実効性ある取組を進めていくことが強く求められる。

【18頁】再生可能エネルギー導入目標について

再生可能エネルギーの普及は、産業競争力の維持・強化の面で重要であり、日本全体の脱炭素化を後押しするものとなるという認識のもとで、計画する必要がある。

 

①再エネ比率の目標設定が必要である

環境省の自治体排出量カルテにおける「区域の再生可能エネルギーの導入設備容量の推移(累積)」では、対電気使用量FIT・FIP導入比5.4%となっている。再エネ導入量の目標だけでなく、比率の目標の設定が必要である。

 

②再エネ普及促進のための政策が必要である

計画案18頁では、2030年度に「再生可能エネルギー導入量500MW」を目標としているが、最大の導入ポテンシャルを持つ、住宅分野における施策は「共同購入」や「建築士による説明促進」にとどまっており、再エネ比率を大きく引き上げる水準とは言い難い。

たとえば、政令市で最も温室効果ガスを排出している川崎市では、新築建築物等を対象とした太陽光発電設備の導入義務化が実施されている。同じ政令市である神戸市においても、制度的手法を含めたより踏み込んだ施策の検討が必要である。

参考)川崎市地球温暖化対策推進条例の改正に向けた重要施策の考え方

 

③既存の太陽光発電の早急な拡大が必要

本計画では、ペロブスカイト太陽電池についての期待を示唆しているが、1頁に記載されている通り「1.5℃に抑えるための努力を追求することが世界的に急務である。そのため、2020年から2030年の10年間に排出削減対策を加速させる必要がある。」という認識のもと、現状の切迫の度合いに鑑みれば、既存の技術確立しているシリコン系太陽光電池などを最大限導入することが必要である。技術開発・確立を待って、排出削減策を先送りするようなことがあってはならない。

 

④市として、「再エネ100%の実現目標」を明確に掲げるべきである

再生可能エネルギーの供給量を拡大するためには、消費者側からの明確な需要シグナルが不可欠である。そのため、市が行う電力調達において、再生可能エネルギー比率の高い電力を供給する事業者が優位となる入札制度を導入すべきである。

その上で、神戸市自らが2035年から2040年までに、市の電力調達を100%再生可能エネルギーとする目標を設定し、率先して取り組むことが求められる。こうした先導的な行動を通じて、再生可能エネルギーの普及拡大を促し、再エネ社会の実現を牽引する役割を果たすべきである。

 

【28頁】環境保全協定について

計画案の28頁において、「神戸市と事業者が締結している環境保全協定における企業の自主的な取組を促進するとともに、自社の温室効果ガス排出量削減計画及び実績報告書の提出を求め、大企業を含めた企業のさらなる脱炭素化を促進。」との記載がある。しかし、環境保全協定は、本来、大気汚染物質や水質汚濁物質など、環境汚染防止を目的とした報告・管理を中心とする枠組みであり、温室効果ガス削減について具体的な削減義務や数値目標、達成手段を担保する制度とはなっていない。

また、排出量削減計画や実績報告書の提出を求めること自体は、現状把握や情報開示の面では一定の意義があるものの、それだけで排出削減が実効的に進むとは限らない。

このため、環境保全協定を根拠として「大企業を含めた企業のさらなる脱炭素化を促進する」と評価することは、制度の実効性を過大に見積もった表現であると言わざるを得ない。少なくとも、どのような仕組みによって排出削減につながるのか、具体的な根拠や効果の見込みを示す必要がある。

 

【59頁】地球温暖化対策の推進に向けて

本計画案では、市民や事業者への普及啓発・行動変容の重要性が述べられている一方で、それを担う具体的な推進体制が示されていない。例えば、兵庫県地球温暖化防止活動推進センターのような、県内で長年にわたり普及啓発や人材育成を担ってきた中間支援組織との連携についても言及がない。こうした既存の資源をどのように活用するのかが示されておらず、計画の実行段階における具体像が見えにくい構成となっている。

 

気候変動対策は、市民一人ひとりの行動変容や地域における合意形成を不可欠とする政策分野であり、その推進にあたっては、市民参加の仕組みを計画段階から明示することが重要である。近年では、気候市民会議など、熟議型の市民参加手法を導入する自治体も増えており、気候政策の正当性と実効性を高める有効な手段として一定の評価をされている。

 

例えば川崎市では、気候市民会議を開催し、提案を受けるだけでなく、地球温暖化対策計画の改定に際して、市民や事業者向けの計画の説明会を開催するなど、計画内容の共有と意見反映、市民参加の機会を広く設けている。これに対し、本計画案では、市民が計画の進捗や課題を理解し、主体的に関与していくための具体的なプロセスが示されていない。推進体制において、市民参加の位置づけや中間支援組織との役割分担を明確にしないままでは、「市民の行動変容」を求める施策の実効性を担保することは困難である。