石炭火力を巡る行政訴訟について

神戸製鋼が現在建設を進めている石炭火力発電所(130万kW)について、2018年11月19日、発電所の周辺住民等12人は、国を被告として、環境影響評価書の確定通知の取消し及びCO2排出規制を求める行政訴訟を大阪地方裁判所に提起しました。新設発電所から排出されるCO2(年間約700万トン)や大気汚染物質によって被害を受けるおそれがあるとして、①新設発電所にかかる環境影響評価書の変更をする必要がないと認めた経済産業大臣の通知(確定通知)の取消しを求めるとともに、②特に地球温暖化対策に関して、パリ協定に整合する規制基準が制定されていないことが違法であるとの確認を求めるものです。    


今、国際的な地球温暖化対策の目標を定めるパリ協定のもとで、世界的に「石炭火力発電からの脱却」が求められています。たとえ最新型のものであっても、天然ガス火力発電の約2倍という大量の温室効果ガス(CO2)を排出します。また、大気汚染の防止や水銀排出の抑制という観点からも望ましくないものであるからです。計画地周辺は、かつて深刻な大気汚染公害を経験し、今なお環境改善の途中にある人口密集地域です。このような地域に石炭火力発電所を立地することは到底認められません。ローカルな視点からも、グローバルな視点からも環境負荷が高い石炭火力発電所の建設に対して、住民は当初から環境アセスメントにおける手続の中で建設に反対してきました。しかし、それでも計画が止まることはなかったため、法的手続をとることになりました。

 

2017年12月14日には、周辺住民らが、兵庫県公害審査会に対して、新設発電所の計画見直し、及び、稼働中の石炭火力発電所における環境対策などを求める公害調停を申し立てました(調停申請人は、合計481名となりました)。しかし、公害調停における協議が続いているなかで、神戸製鋼は調停手続を無視する形で着工への手続を行いました(抗議声明)。これを受け、2018年9月14日、神戸製鋼・関西電力などを被告として、安定気候享受権及び健康平穏生活権(安定した気候・清浄な空気のもとで、持続的に、健康かつ平穏に生活できる権利)を実現するため、神戸地方裁判所に、本件発電所の建設・稼働の差止めを求める民事訴訟を提起したところです(2018年11月7日、兵庫県公害審査会調停委員会は、公害紛争処理法第36条に基づき、公害調停における協議の打ち切りを決定しました)。

 

今回の行政訴訟は、本来は環境の保全と公害・環境被害の防止のために十分に事業者を監督すべき立場にある国が、十分にその権限を行使せず、新設発電所の問題点を見過ごす形で事業化を容認していることの責任を追及するものです。

また、神戸製鋼の石炭火力発電所の問題にとどまらず、35基もの石炭火力発電所の新増設を認めてしまう国の政策の違法性を問うものでもあります。子や孫たちの健康や暮らしや住みよい環境を守るため、全国の皆さんとともにこの裁判をたたかっていきたいと思います。    


民事差し止め訴訟

行政訴訟 訴状

訴訟サポーターとして参加する



2つの訴訟を通じて求めること


行政訴訟で求めること

①経済産業大臣が行った環境影響評価書に対する確定通知を取り消すこと

新設発電所については、国のアセス対象となる大規模火力発電所であり、電気事業法及び環境影響評価法に基づき環境アセスが行われました。しかし、新設発電所の環境アセスについては、天然ガス火力等と比べて約2倍ものCO2が排出され、地球温暖化に大きな影響があるにもかかわらずこの点を検討せず、また、各種の大気汚染物質が近隣地域に与える影響についても適切な配慮を行っていません。また、市民意見の提出の前に適切な環境情報の提供をしていなかったことなど数々の手続的な瑕疵もありました。経済産業大臣は、これらの問題を見過ごして、環境影響評価書を確定させ、新設発電所の工事のための手続きを可能とする「確定通知」を出しました。この経済産業大臣の「確定通知」を取り消すことを求め、新設発電所からのCO2は大気汚染物質の排出削減措置の実現を目指します。    

②経済産業大臣がパリ協定と整合する火力発電所からのCO2排出規制に係る規定を定めていないことが
 違法であるとの確認

火力発電所については、電気事業法39条に基づく「発電用火力発電設備に係る技術基準を定める省令」(技術基準省令)により、公害防止のために遵守すべき事項が定められています。また、同法は、発電所の操業が「人体に危害を及ぼさないように」技術基準省令を定めるものとしています。ところが、同省令には大気汚染防止法やダイオキシン措置法などの対象物質の規制の遵守は掲げられているものの、CO2の排出規制を定める事項はなく、他の法律によっても、火力発電設備のCO2排出の規制はされていません。

CO2の大量排出は、世界的な気候変動に寄与し、異常気象や災害を多発させるものであり、これらを通じて「人体に危害を及ぼす」ことになります。そして、石炭火力発電所の新増設は、国のパリ協定に基づくCO2の削減目標を達成できない状態にするものです。にもかかわらず、CO2の排出量の相当な割合を占める火力発電所について、発電所からの「人体に危害を及ぼす」CO2排出について規制がされていないことは違法であり、パリ協定に基づく目標を達成できるよう、技術基準省令に、適切なCO2排出規制の規定が定められなければなりません。

したがって、経済産業大臣が、火力発電所について、パリ協定の目標を達成できるよう、適切なCO2排出規制の規定を定めることを求め、これによる規制によって、新設発電所をはじめとする石炭火力発電所からのCO2排出量の削減の実現を目指します。