【声明】神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画の環境影響評価準備書にかかる 兵庫県知事意見「CO2の排出を増加させないこと」と要請 経済産業大臣・環境大臣も、地球環境・地域環境保全のため計画中止の要請を(2018/03/20)

 

2018年3月20日

【声  明】

神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画の環境影響評価準備書にかかる

兵庫県知事意見「CO2の排出を増加させないこと」と要請

経済産業大臣・環境大臣も、地球環境・地域環境保全のため計画中止の要請を

 

神戸の石炭火力発電を考える会

 

 兵庫県は、2018年3月16日、神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画(以下「本計画」という)環境影響評価準備書(以下「準備書」という)について、兵庫県環境影響審査会(以下「審査会」という)の答申を踏まえて作成した知事意見書(以下「意見書」という)を、電気事業法の定めに従い、経済産業大臣に送付したことを明らかにしました。意見書の指摘には、地域の環境保全、市民への健康影響の低減という知事に課せられた責務に照らし、不十分な点が少なくありません(以下1、3、4)。しかし、意見書の要請に事業者が応えようとするならば、事業者は、少なくとも「石炭」を燃料とする火力発電所を建設することは不可能であり、本意見書は、パリ協定以降の温暖化対策の観点から、石炭火力発電所の新設を問題視するもので、事業者はこれを真摯に受け止め、建設計画自体を再検討すべきです(以下2)。

 経済産業大臣、環境大臣にあっては、配慮書・方法書・準備書の各手続において提出された市民意見、神戸市及び兵庫県が主催した公聴会における公述意見、知事意見書の指摘等に耳を傾け、環境保全という観点から最悪の燃料を、最悪の立地で敢えて建設しようとする本計画を中止させることを求めます。石炭火力発電は、出力の迅速な調整もできず、急速な普及が求められている再生可能エネルギー電源との相性も最悪であり、今この時点で、大規模な石炭火力発電所を建設しようとすることは、国際社会およびわが国の温暖化対策の足を引っ張る暴挙というほかありません。

 

1. 環境保全上の問題点の不十分な指摘―とくに大気環境について

 当会では、昨年7月末の第1次要請書以来、これまで数次にわたって、本計画にかかる様々な環境保全上の問題点や、神戸製鋼による環境影響評価の不適切性・不十分性について指摘してきました。兵庫県主催の公聴会(本年2月3日)においても、13名中、12名の公述人が本計画及び準備書が抱える問題点を指摘し、環境保全の見地から本計画に反対の意思を表明したところです(昨年8月20日の神戸市主催の公聴会では、39名の公述人の全員が計画に反対)。審査会における審議の過程でも、本計画にかかる環境保全上の問題点の指摘が相次ぎました。意見書は、前文で「本事業は、…神戸市東部の住宅密集地に近接して設置されるものである。…温室効果ガス、大気汚染物質及び排水等による環境への大きな影響が懸念される」と述べています。しかし、意見書は、それに続く本文で、本計画が抱える重大な環境保全上の問題を、全くあるいは不十分にしか取り上げていません。不十分な点は多岐にわたりますが、たとえば、以下のような事項は、当会の要請書のみならず、公述意見、市民意見、審査会における審議において指摘されていた極めて重要な問題であり、意見書に十分に反映されていないことは著しく不当です。

 発電所の建設予定地は、PM2.5や光化学オキシダントの環境基準を達成していません。また、NO2の環境基準0.04ppm~0.06ppmのゾーン内(現状からの非悪化が求められている地域)にあり、大気汚染公害の認定患者の方々も居住しています。このような地域に新たな大規模汚染源を追加することは、認められません。

この地域は、かつての深刻な大気汚染公害からの環境改善の途上にあります。NOx・PM法や、ほかならぬ兵庫県のPM規制の対象地域に大規模な大気汚染源を新設することは、自動車排ガス対策等により長年の努力で積み上げてきた公害対策の成果を、否定するものです。

 この計画は、住宅地から至近の、しかも、現状非悪化が求められている「最悪の立地」で行うものです。また、大気汚染・温暖化対策の観点から「最悪の発電方法」をとるものです。このような計画に対し、条例によるPM規制を先駆的に導入するなど、地域環境管理の取組みを続けてきた兵庫県知事が、“ここには石炭を燃料とする発電所の立地は認められない”と述べない理由はどこにあるのでしょうか。

 

2 温暖化対策―知事意見は、事実上、脱「石炭」を求めるもの

・本計画の本質―「逆リプレース」+「再エネ拡大による成果の横取り」

神戸製鋼が神戸市に提出した資料(右図)からわかることは、本計画により、あろうことか、関西電力が保有する石油・LNG火力から、環境負荷が高く、CO2排出量も多い「石炭へのリプレース」が行われようとしている、ということです。世界が協調して脱炭素に向かおうとしている中、そのような温暖化対策に逆行するリプレースは容認できません。

また、事業者は、本計画(石炭へのリプレース)によって増加するCO2排出は、消費者負担による再生可能エネルギーの普及によって相殺されると主張していますが、そのような強弁は、意味不明であるばかりか、当該企業の企業倫理が疑われるような言明といわざるをえません。

 

出所)第161回神戸市環境影響評価審査会資料

 

・知事意見

知事意見は、温室効果ガスの排出に関し、以下のように述べています。

「発電施設の導入時点において採用可能な最も高効率で二酸化炭素排出量の少ない発電施設を導入し、適切な維持管理を図ることにより、二酸化炭素排出量を抑制すること。そのうえで、二酸化炭素総排出量の増加に見合う削減方策を売電先の対策を含め、手段を明確にして必ず確実に実施し、二酸化炭素総排出量を施設の供用によって増加させないこと。また、二酸化炭素総排出量の増加に見合う削減方策について、評価書に個別具体的、定量的に記載すること」。

 知事意見は、事業者に対して責任をもって「温暖化対策の観点から、本計画は是認できない」と述べるべきであったと考えますが、このように、知事意見が、(石炭火力の中で、ではなく)「採用可能な最も高効率で二酸化炭素排出量の少ない発電施設を導入し」、「二酸化炭素総排出量を施設の供用によって増加させないこと」を求めていることは、極めて重要です。

 石炭火力発電所は、天然ガス火力と比べて、大量の大気汚染物質を排出するだけでなく、効率も著しく劣り、二酸化炭素排出量も2倍以上になります。片や130万kWの石炭火力発電所を作り、片や関西電力管内の天然ガス火力発電所の稼働を抑制したのでは、「二酸化炭素総排出量を施設の供用によって増加させない」ことが不可能であることは明らかです。知事意見で求められたようにCO2排出を増加させないためには、低効率で二酸化炭素の排出原単位が天然ガス火力の2倍以上となる石炭火力発電所を建設することは出来ないはずです。

 

3. 環境影響評価手続上の問題点

 昨年10月に神戸製鋼のデータ改ざん問題が発覚し、兵庫県及び神戸市は、アセスデータの検証作業に追われました。当会は、この検証作業について、準備書の根拠となるデータに数百か所の数値の修正が必要となったことは、昨年7月に公開した準備書がいかに杜撰な作りであったかを示すものであると指摘しました。そして、改ざん事件以前にも、市民参加のプロセス終了後に神戸市の審査会委員からの指摘を受けて膨大な補足説明資料が提出されたこと(たとえば、神戸製鋼が、大気汚染物質の排出が大幅に増えることを隠したままで市民参加手続が行われ、参加手続の後に、神戸市の審査会に強いられて当該データを提出したことは、市長意見が指摘するように重大な問題です)、さらに、準備書が今回のデータ修正で幾重にもつぎはぎされたことに鑑みると、本件準備書は、もはや“準備書”の体を為しておらず、環境影響評価手続、特に、市民参加手続をやり直すべきである、と主張してきました。

 この点については、神戸市長の意見書においても、事業者の姿勢につき、「準備書等の修正の内容は、直ちに神戸市環境影響評価審査会委員の理解を得られるものでなかった」、「準備書に係る事業者の情報提供の姿勢には問題があると言わざるを得ない」と指摘されているところです。また、知事意見書も、「計画段階環境配慮書手続から準備書手続の各段階において、事業者の説明が不十分である等の住民意見が多数出ている」との認識を示しています。それにもかかわらず、環境影響評価手続のやり直しを求めないのは、市民参加手続の意義を無視するものであり、また、神戸製鋼の主張を代弁するようなものといわれても仕方がありません。

 

4. 行政の透明性確保に向けて

 知事の意見書は、芦屋市長や神戸市長の意見書よりも内容的に優れた点が含まれていますが、意見書形成過程における行政の透明性・説明責任という点では、神戸市などの運用を見習う必要があります。神戸市環境影響評価審査会は、一部の審議を除き、市民に対し公開で議論がなされましたが、兵庫県環境影響評価審査会・神鋼神戸製鉄所火力発電所部会は、市民、当会、報道機関の求めにもかかわらず、終始非公開で行われきました。当会などの求めに応じて、部会の期日後に、概要説明が行われましたが、質疑も十分行われず、(市民の知る権利を確保する責務を負っている)報道機関に対する応答も不十分なものでした。

 審議会審議の公開を含む行政情報の公開は、行政の透明性確保、説明責任という観点から、法治主義・民主主義の前提条件であることはいうまでもありませんが、今回の運用をみても、県には、そのような認識が欠けている、といわざるをえません(数か月経った後に、委員名を匿名化し、発言内容を修正した(修正しうる)議事録を公開するのでは、会議の公開という要請に十分に応えたことにはなりません)。意見書は、「事業者自らによる正確な調査・予測・評価並びに適切な情報公開」が、環境影響評価制度の目的達成のための大前提である」と述べ、また、事業者に対しウェブサイト上の評価書を印刷可能にするなどの措置を求めてもいますが、県も情報公開という点で大きな問題を抱えているといわざるをえません。以上の点は、環境影響審査会に限らず、兵庫県の他の審議会の運用に関わる問題ですが、これまでのような時代遅れの運用を直ちに改めることを求めます。

 

5. むすび

 審査会答申及び知事意見は、市民意見、公述意見書、審査会における専門的議論を十分反映しておらず、環境保全上の問題に関する定量的・個別的な指摘がほとんど見られません。また、知事意見は、兵庫県主催の公聴会において13名中12名の公述人が、環境保全の見地から本計画に反対した事実を十分考慮していません。しかし、他方で、知事意見が、温暖化対策の観点から、低効率で二酸化炭素の排出原単位が天然ガス火力の2倍以上となる石炭火力発電所の建設を中止するよう、事実上求めていると解される点は、妥当です。知事意見は、日本の温暖化対策にかかる2030年目標に言及していませんが、武豊火力のリプレース計画の準備書に対する環境大臣意見(昨年8月)、三隅発電所2号機建設変更計画の準備書に対する環境大臣意見(本年1月)では、このまま石炭火力の新増設が進めば当該目標は達成できない、という危機感が示されています。また、本計画は、2021年から30年以上稼働させる計画であり、本計画と国の2050年目標(温室効果ガス80%削減)は全く整合しません。さらに、近時、外務省の気候変動対策に関する有識者会合の「エネルギーに関する提言」(本年2月)においても、日本においても、「石炭火力発電は最新のものであったとしても、パリ協定の2℃目標と整合しない。日本は石炭火力発電所の廃止を覚悟し、その基本姿勢を世界に公表していく」との提言がなされているところです。

 環境大臣においては、日本における環境行政の長として、知事意見の上記指摘や、地元市民の懸念を十分に受け止めるとともに、本件計画は、国の温暖化対策目標と整合しないばかりか、敢えて最悪の立地で、最悪の発電方法で行われるものでもあることから、「石炭を燃料とする本件発電所建設計画は、環境保全の観点から是認できない」との意見を表明していただきたい。

 

神戸の石炭火力発電を考える会

住所:神戸市灘区山田町3-1-1(公財)神戸学生・青年センター内

TEL:080-2349-0490

Mail:kobesekitan@gmail.com

HP: https://kobesekitan.jimdo.com/

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