【声明】環境省「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果」及び 神戸製鋼の石炭火力発電所設置計画に対する環境大臣意見について(2018/4/04)

4月3日付で発表した声明で述べた通り、環境大臣意見はとりわけ温暖化対策の観点から石炭火力発電所を増設することは事実上困難である(できない)ことを示したものであるが、環境行政の責任官庁としての役割を果たしたというには極めて不十分な内容であったので、計画の現場で生活する市民の立場から抗議を送るものである。

【声明】

2018年4月4日

 

環境省「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果」及び

神戸製鋼の石炭火力発電所設置計画に対する環境大臣意見について

 

環境省の対応は、なお極めて不十分―温暖化対策・地域環境保全のための責任を果たせ!

 

神戸の石炭火力発電を考える会 

 環境大臣は、3月23日、神戸製鋼が神戸市灘区において建設を計画している石炭火力発電所(神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画)にかかる環境影響評価準備書に対する環境大臣意見(以下、「大臣意見」という)とともに、「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果」(以下、「電力レビュー」という。)を公表しました。電力レビューにおいては、石炭火力の新増設計画に歯止めがかからず、2030年目標達成が困難になっていることが改めて指摘されています。同日に公表された大臣意見も、全体としては、神戸製鋼の計画に反対する姿勢を示したものと解されます。神戸製鋼は、石炭火力発電所の建設計画を中止すべきです(当会の3月27日付け声明参照)。

 もっとも、大臣意見の内容は、環境影響評価手続において、1173件もの市民意見や当会などが求めてきた審査内容に照らすと、極めて不十分であり、環境行政の責任官庁としての役割を果たしたというには程遠い内容です。以下の点について、私たちは、温暖化対策を求める市民、地域環境の悪化を懸念する市民と共に、強い遺憾の意を表明します。

 

1. 温暖化対策について

(1)電力レビューの背景

 東日本大震災後、電力需給のひっ迫、電力システム改革による競争の激化等を背景として、安価かつ大規模な電力の供給源として、全国で石炭火力発電所の新増設の計画が進んでいます。石炭火力は、天然ガス火力の2倍以上のCO2を排出することから、温暖化対策の観点から歯止めをかける必要があります。

 2030年の温暖化対策目標・長期エネルギー需給見通しと整合するCO2の排出係数0.37kg-CO2/kWhを達成するための取組みとして、電力業界は、2015年7月に電気事業分野の「自主的枠組みの概要」と「電気事業における低炭素社会実行計画」を公表しました。しかし、環境大臣は、5つの石炭火力発電所の新増設計画にかかる環境影響評価手続における環境大臣意見の中で、自主的枠組みの目標を如何にして達成するのかという実効性の点に疑問を呈し、新増設計画は「現段階において、是認することはできない」と述べました。これに対処するため、電力業界は、「低炭素社会実行計画」の目標達成に向けた取組みを進めるため「電力事業低炭素社会協議会」を立ち上げ、また、環境省と経産省は、電力業界の自主的枠組みの取組みの実効性を確保するための政策的対応として、省エネ法・エネルギー供給構造高度化法に基づく基準を設定するなどの措置をとることに合意しました(2016年2月9日。以下、「両大臣合意」という)。

 この両大臣合意以降、石炭火力発電所の新増設計画にかかる環境影響評価手続における環境大臣意見においては、事業者に対して、省エネ法に基づくベンチマークの達成や、高度化法に基づく基準の遵守等を求めています。両大臣合意以降、「是認できない」という意見は、出されていません。

 

(2)電力レビューの内容

 両大臣合意以降、環境省は、2030年度の温暖化対策目標・長期エネルギー需給見通しと整合するCO2の排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標の達成に向けて、電力事業者の取組みが実効的に進められているか、毎年度進捗状況を評価しています。これが、電力レビューであり、3月23日に公表された平成29年度の電力レビューの内容(抜粋)は以下のとおりです。  

 

【進捗状況の評価等】

・「石炭火力発電について、現時点で計画されている新設・増設計画が全て実行されると、2030年度目標の達成は困難」(控えめに見積もっても、石炭火力発電からのCO2排出量は、2030年度の削減目標よりも6800万トン程度超過する)。

・「電力業界の自主的枠組である「電気事業低炭素社会協議会」は、今年度初めて、会員企業の取組状況の評価を実施。この評価は、1年間の取組を各社が自らチェックしたことを協議会として確認したもの。定量的な目標設定を始め、具体的な評価基準を明確にしなければ、自主的枠組みの実効性には疑問」(「協議会が業界全体の目標達成に向かっているかを評価する、という意味でのPDCAサイクルになっているとは必ずしも言えない」)。

 

【総括】

・「平成28年2月合意から2年が経過し、様々な状況の変化や新たな動きがある中、枠組みへの懸念や課題が顕在化」。

・「切迫感を持って今後の取組の進捗を注視しつつ、今後、進捗が見られない場合に目標の達成が困難になることのないよう、施策の見直しを含めて検討すべき」。

このように、電力業界の自主的枠組み、それを支える省エネ法・高度化法の基準は、国の2030年の温暖化対策目標・長期エネルギー需給見通しが想定する電源構成と比較して、著しく過剰な石炭火力発電所の建設計画に対する歯止めとして全く機能していない、というのが、この電力レビューの評価にほかなりません。

 

(3)本件大臣意見の内容と問題点

・2030年温暖化対策目標を達成するための取組みに実効性がない以上、端的に「是認できない」と指摘すべき

 本件計画に対する環境大臣意見は、電力レビューと同様に、①世界各国で、石炭火力発電所からの投資の引き上げ(ダイベストメント)の動きが揺るぎないものとなっている、②他方で、国際機関の報告書において、日本は石炭火力の新増設計画が集中している国として挙げられている、③日本の石炭火力発電所全体からのCO2排出量は、2030年目標達成のための想定排出量を現在すでに大幅に上回っていると指摘しています。そして、日本の石炭火力新増設計画が全て実現した場合には、2030年における設備利用率を54%以下としなければならず、神戸製鋼の計画は「環境保全面から極めて高い事業リスクを伴う」と評価しています。大臣意見は、「2030年度及びそれ以降に向けた本事業に係るCO2排出削減の取組みへの対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含め、事業の実施についてあらゆる選択肢を勘案して検討する」ことを求めています。

 2015年、当時の石炭火力建設計画に対して出された環境大臣意見では、温暖化対策目標達成のための取組みが実効性を欠いていることを理由に、石炭火力の建設計画は「是認できない」と述べられていました。今回本件意見書と同日に発表された電力レビューにおいては、上述したように、温暖化対策目標を達成するための自主的枠組みを中心とする仕組みが現在も機能していない、ということを明確に指摘されています。今、まさに2015年と同様の状況にあり、環境大臣は、本件計画について、温暖化対策の観点から「是認できない」と端的に述べるべきでした。それにもかかわらず、2015年当時の環境省のように明解な意見表明を行わなかったことは、無責任であり、極めて遺憾です[1]。

 

・省エネ法のベンチマーク指標等を充たせばよいわけではない

環境大臣意見は、「とりわけ、2030年度のベンチマーク指標の目標との関係では、具体的な道筋が示されないまま容認されるべきものではなく、目標達成に向けた具体的な方策、行程の確立及びCO2排出削減に向けた不断の努力が必要不可欠である」との指摘をしています。「容認されるべきものではなく」などと述べていますが、神戸製鋼は、栃木県真岡に天然ガス火力発電所を建設中であり、大臣意見も認めるとおり、ベンチマーク指標の達成が見込まれる状況です。ベンチマーク指標への言及は、本事業に対して、温暖化対策の観点から何ら追加的な注文を付けるものではありません。

そもそも、省エネ法のベンチマークは法令に基づく基準であり、達成するのはいわば当たり前のことです。環境影響評価法は、かつての閣議アセスのように、たんに行政上の基準に合致するかどうかの○×式のチェックを行うものではなく、公衆の関与を含めた第三者の参画のもとで、環境悪化の防止のためのより良い決定を行う手段へと性格を変えたと解されています[2]。敢えて「最悪の燃料」、「最悪の立地」を選んで火力発電所を設置しようとする暴挙に対して、本件の環境影響評価手続において、環境大臣が「環境保全の見地から、是認できない」と言えないのなら、環境影響評価制度の存在意義はどこにあるのでしょうか。

 

 環境大臣意見の「各論(1)温室効果ガス」の項目は、①「BATの参考表」(B)と合致していること、②ベンチマーク指標の遵守、③自主的枠組み参加企業である関電に全量売却すること、④CO2排出総量の年度ごとの把握(以上は、いずれも予定されている事柄)、⑤(事業者が行うはずのない)CCSの導入検討、⑥温暖化対策のための適切な範囲での必要な措置、を事業者に求めているだけです。電力レビューにおいて(一般論としては)強い危機感を表明している環境省が、肝心の具体的な建設計画に直面した際に、石炭火力発電に歯止めをかける強い意思をもっているのか、疑わせるような内容といわざるをえません。

 

・本計画の本質は、「逆リプレース」と、「再エネ拡大の成果の横取り」

 神戸製鋼が神戸市に提出した資料(右図)からわかることは、本計画により、あろうことか、関西電力が保有する石油・LNG火力から、環境負荷が高く、CO2排出量も多い「石炭火力へのリプレース」が行われようとしている、ということです。世界が協調して脱炭素に向かおうとしている中、そのような温暖化対策に逆行するリプレースは容認できません。

 また、事業者は、本計画(石炭へのリプレース)によって増加するCO2排出は、消費者負担による再生可能エネルギーの普及によって相殺されると主張していますが、そのような強弁は、論理的に破たんしているばかりか、当該企業の企業倫理が疑われるような言明といわざるをえません。

 

 

第161回 神戸市環境影響評価審査会 資料18
第161回 神戸市環境影響評価審査会 資料18

 この点、準備書に対する兵庫県知事意見が、(石炭火力の中で、ではなく)「採用可能な最も高効率で二酸化炭素排出量の少ない発電施設を導入し」、「二酸化炭素総排出量を施設の供用によって増加させないこと」を求めていることは、極めて重要です。石炭火力発電所は、天然ガス火力と比べて、大量の大気汚染物質を排出するだけでなく、効率も著しく劣り、CO2排出量も2倍以上になります。片や130万kWの石炭火力発電所を作り、片や関西電力管内の天然ガス火力発電所の稼働を抑制したのでは、「二酸化炭素総排出量を施設の供用によって増加させない」ことが不可能であることは明らかです。知事意見が求めるようにCO2排出を増加させないためには、低効率でCO2の排出原単位が天然ガス火力の2倍以上となる石炭火力発電所を建設することはできないはずです。

 温暖化対策についてより大きな責任を負っている環境省は、大臣意見として、より明確に石炭を燃料とする火力発電所の建設は容認できない、と述べるべきでした。

 

2. 大気環境について

 大臣意見は、大気環境に関し、「本事業の対象事業実施区域及びその周辺は、〔自動車NOx・PM法〕に基づく対策地域とされている。また、同区域の周辺は過去に深刻な大気汚染による健康被害が発生し、現状においても大気の汚染に係る環境基準の一部を達成していない地点が存在するなど、大気環境の改善が必要な地域である」と指摘しています。そのうえで、「本事業は、人口密集地であり、かつ、既存の製鉄所及び発電所が存在する地域において、環境負荷を増大させる事業である」、「対象事業実施区域の周辺には、学校、病院その他の環境の保全についての配慮が特に必要な施設や多数の住居が存在する」と述べています。

 発電所の建設予定地は、PM2.5や光化学オキシダントの環境基準を達成していません。また、付近の地域では、恒常的に、なおNO2の環境基準0.04ppm~0.06ppmのゾーン内(現状からの非悪化が求められている地域)にあり、大気汚染公害の認定患者の方々も居住しています。このような地域に新たな大規模汚染源を追加することは、認められません。環境大臣意見は、知事意見と比較しても、この点にかかる指摘が極めて不十分です。

 この地域は、かつての深刻な大気汚染公害からの環境改善の途上にあります。自動車NOx・PM法や、兵庫県のPM規制の対象地域に大規模な大気汚染源を新設することは、自動車排ガス対策等により長年の努力で積み上げてきた公害対策の成果を、否定するものです。

 

以上のように、本計画は、住宅地から至近の、しかも、現状非悪化が求められている「最悪の立地」で行うものです。また、大気汚染・温暖化対策の観点から「最悪の燃料」を用いるものです。大臣意見においては、より明確に、 “ここには石炭を燃料とする発電所の立地は認められない”と述べるべきでした。

 

3. 環境大臣意見は、その他の点でも不十分

 大臣意見は、その他にも不十分な点が多々あります。

知事意見では、人口と産業が密集する地域であり閉鎖水域に面した神戸南部の地域環境管理の観点から、たとえば、排ガス中のSOx、NOx、ばいじん、水銀その他の重金属の総排出量を評価書に記載することなども求めていますが、大臣意見には、そのような記述が見当たりません。知事意見では、水俣条約を踏まえ、環境中への水銀の排出を最大限抑制することを求めていますが、大臣意見では、この点に関する記述が極めて淡泊です。

 水環境への影響については、当会は、神戸市・兵庫県に対する追加・補足要請書(2016年8月24日付)において、2016年に「水質汚濁に係る生活環境の保全に関する環境基準」が見直され(H28年3月30日告示)、底層DOの環境基準が設定されたこと、及び、準備書のデータによれば周辺海域の多くの地点で環境基準が守れない貧酸素状態になっていることを指摘しました。このような海域において新たな温排水の大規模排出源を建設し、酸素供給をさらに悪化させることは認められません。しかし、環境大臣意見においては、この点についての問題意識も希薄です。

 また、環境大臣意見は、昨年8月20日の神戸市主催の公聴会では、39名の公述人の全員が計画に反対したこと、兵庫県主催の公聴会(本年2月3日)においても、13名中、12名の公述人が本計画及び準備書が抱える問題点を指摘し、環境保全の見地から本計画に反対の意思を表明したこと、準備書に対し1173件もの市民意見の大部分が本計画に対する反対・懸念を表明していることを重く受け止めているようには思えません。

 大臣意見では「地域住民等の関係者の理解・納得が得られるよう、誠意をもって丁寧かつ十分な説明を行うこと」を事業者に求めています。しかし、侮るなかれ、地域住民は、本計画の内容とその問題点を既に十分「理解」しています。前述したように、「最悪の立地」、「最悪の発電方法」で行う本計画に「納得」することができるはずはありません。事業者がすべきことは、「誠意をもって丁寧かつ十分な説明を行うこと」ではなく、本計画の環境保全上の問題を理解して石炭火力発電所の建設を中止するという理性的な決断をすることです。

 

4. 結び―いつまで微温的対応を続けるのか―

 電力レビューに記載されているように、両大臣合意の後、環境大臣意見は、石炭火力発電所の新増設計画に対し、自主的枠組みに基づく取組みを行うよう求めることに終始し、2030年目標の達成を不可能にするような多くの新増設計画に対し、事実上、何の歯止めをかけることもできていません。昨年8月の武豊火力発電所(中部電力)、本年1月の三隅石炭火力発電所(中国電力)の準備書に対する環境大臣意見でも、本計画に対する環境大臣意見でも、どこか他人事のように、世界は脱石炭へと向かっていることを長々と述べる一方、具体的な石炭火力発電所の新増設計画については、実際上、何の歯止めをかけることもしていません。

 両大臣合意以前の環境大臣意見においては、2030年目標達成のための取組みの実効性が担保されていないことを理由に、石炭火力の新増設は「是認できない」と述べられてきました。電力レビューが指摘するように、現在、まさに同じ状況にあります。それにもかかわらず、環境省は、実効性に重大な疑念がある自主的枠組みや両大臣合意に手足を縛られて微温的な対応を繰り返し、2015年当時のような責任ある意見表明を行うことを怠っています。これでは、2030年の温暖化対策目標の達成に責任を負う環境行政の長として、無責任の誹りを免れません。

 特に、本件計画は、最悪の立地、最悪の発電方法、信頼性を欠く事業者[3]によって行われるものであり、本件事業を止められなければ、他にどんな事業を止められるでしょうか。石炭火力発電所の新増設計画に歯止めがかからない現状は、環境省の微温的かつ責任感を欠く対応にも原因があると認識すべきです。

 

 

以上。


[1] 環境大臣意見は、また、「2030年度及びそれ以降に向けた本事業に係るCO2排出削減の取組みへの対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討すること」などと述べていますが、本件計画が石炭を燃料とする火力発電所であり、事業者にはCCS設備を導入するつもりもないことからすると、「2030年度及びそれ以降に向けた本事業に係るCO2排出削減の取組みへの対応の道筋」など、あろうはずがありません。にもかかわらず、環境大臣は、なぜ端的に、本事業は「是認できない」と述べないのでしょうか。

[2] 大塚直『環境法 第3版』(有斐閣・2010年)272頁以下などを参照。

[3] 2017年10月13日の記者会見において、川崎社長(当時)自身が「神戸製鋼の信頼度はゼロに落ちた」と発言していました。

 

神戸の石炭火力発電を考える会

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