【声明】「石炭火力の新設禁止が最重要の政策課題である」
―経産省の石炭火力発電の段階的削減方針に関する声明―
2020年7月6日
神戸の石炭火力発電を考える会
【要旨】
・経済産業大臣は、7月3日、石炭火力発電の段階的削減に向けた具体的方針を検討することを発表しました。
当会は、これが、電力の脱炭素化に向けた施策の第1歩となることを期待します。
・兵庫県にも、低効率の石炭火力発電所が数か所あります。これらを速やかに廃止するべきです。
・経済産業大臣の方針は、古い石炭火力発電所による発電量を2030年度までに9割程度削減する一方、「高効率の」石炭火力発電所については、維持・拡充するというもので問題があります。「高効率」といっても、火力発電所のなかで、発電電力量あたり、最も多くの大気汚染物質、CO2の排出があります。「高効率」石炭火力を維持・拡充したのでは、累積的なCO2排出量がかえって増加することになりかねません。世界がパリ協定のもとで脱炭素・脱石炭に向かおうという時期に、先進国である日本が、今後数十年にわたり石炭火力発電所を稼働させることを容認するもので、許されるものではありません。
・神戸や横須賀では、石炭火力発電所の新増設計画に対する訴訟が提起されています。この訴訟では、住民らがCO2や大気汚染物質の排出という点で問題がある石炭火力を、敢えて選択したことの違法性を訴え、追及しています。発電事業者は、直ちに石炭火力発電所の新設計画を撤回するべきです。
1. 石炭火力発電の段階的削減の加速化を期待します
現在、石炭火力発電の電源構成に占める割合は、32%に達しています。政府のエネルギー長期需給見通しは、2030年の電源構成として石炭火力発電の割合を26%としているところ[1]、このままでは、2030年の石炭火力の割合が40%にも達すると見込まれており、石炭火力を抑制する施策が強く求められていました。
このような中で、経済産業大臣は、7月3日、石炭火力発電の段階的削減に向けた具体的方針を検討すると発表しました。当会は、これを電力の脱炭素化に向けた施策の第1歩として、石炭火力発電所の全廃に向けた取組みを加速化させることを期待します。
2. 兵庫県内の旧式石炭火力発電所は、速やかに廃止すべき
経済産業大臣は、石炭ガス化複合発電(IGCC)と、超々臨界圧(USC)以外の石炭火力発電所を旧式の石炭火力発電所と分類しているとみられます。兵庫県にも、そのような低効率の旧式石炭火力発電所が6基(215.2万kW)あります。
兵庫県内にある、これらの旧式石炭火力発電は、発電効率が低く、大気汚染物質の排出量、発電量あたりのCO2排出量も相対的に大きいものであり、速やかに廃止されるべきものです。こうした発電所に対して、経済産業大臣は2030年までに、発電量を9割削減する方針とあります。気候変動の進行を緩和するには、累積的なCO2排出量を削減する必要があります。このことから、現在、旧式石炭火力発電所を運転している発電事業者に対し、2030年を待つことなく、少しでも早く操業を停止することを求めます。
3. 古い石炭火力発電所の発電量の9割削減では極めて不十分
「高効率」とされる発電方式(USC、IGCC)を用いている石炭火力発電所は、稼働中のものだけで2441万kW、建設中・環境アセス中・環境アセスが完了したものを含めると、3262万kWもの設備容量となります[2]。2019年のすべての石炭火力発電所の設備容量は4595万kW[3]であり、「高効率」石炭火力発電所を維持すると、現在の設備容量の53%にあたる2441万kWの「高効率」石炭火力発電所を温存することになります。さらに、建設中・アセス中・アセスが完了した新設計画がすべて実現すると、「高効率」石炭火力の設備容量は34%も増え、3262万kWに達することになります。
当会の試算によれば、「高効率」石炭火力を維持・拡充するという方針をとると、その設備利用率が旧式火力と比べて高くなることを考慮に入れるならば、仮に古い石炭火力の発電量を9割減らしたとしても、石炭火力からの発電量は、現状と比べて2030年の時点で1割程度しか削減できない可能性もあります[4]。
要するに、政府が「高効率」と呼ぶ石炭火力であっても、CO2排出は大きく減らず、「高効率」石炭火力を維持・拡充するという方針のもとでは、旧式火力を9割削減しても気候変動対策としての効果は、かなり小さいと言わざるをえないのです。
4. 全ての「石炭」火力発電所のフェーズアウト(全廃)が必要
2030年に向けて、低効率の石炭火力を段階的に廃止し、高効率の石炭火力を維持・拡充するという政策には、偽善性があると指摘せざるをえません。気候変動対策の観点からは、CO2の累積排出量が問題であることはいうまでもありません。旧式の発電所を早めにフェードアウトさせる一方で、新規の「高効率の」石炭火力の新増設の建設を容認するのでは、気候変動対策にならないどころか、石炭に依存する電源構造を長期にわたって固定化することになり、かえってCO2の排出を増加させる結果となります。現存する石炭火力発電所の稼働を、「高効率」のものに限り認めるというこのたびの政策では、2020年以降に新増設された石炭火力発電所は、2030年どころか、2050年を超えて稼働を継続する可能性があります。このため、新設された石炭火力発電からのCO2累積排出量は相当多くなる可能性があります。このたびの経済産業大臣の「2030年までに低効率石炭火力を9割削減」という検討方針は、石炭火力からのCO2の累積的排出量の削減という、気候変動対策の視点から全く適切ではありません。
石炭火力発電を維持することを前提したまま、「発電効率」を基準として稼働の可否を判断するのでなく、再生可能エネルギーのより積極的な導入、脱炭素化への移行の過程における低CO2排出燃料(LNGなど)の利用、という基本方針のもとで、石炭火力発電所の段階的廃止に向けた施策を検討しなければなりません。当会が支援する神戸石炭訴訟(3-4号機の建設・稼働差止訴訟、建設を認めた国に対する行政訴訟)における原告の主張は、こうした考え方に立脚するものです。
今求められる電力部門の気候変動対策は、今後、石炭火力発電所の新増設を認めず、全ての石炭火力発電所を可能な限り早期にフェーズアウト(全廃)させることにあります。
5. 石炭火力発電所の新増設計画を直ちに撤回すべき
神戸や横須賀では、石炭火力発電所の新増設計画に対する訴訟が提起されています[5]。これらの訴訟では、CO2や大気汚染物質の排出という点で、LNG火力と比べて環境負荷の高い石炭火力発電を、事業者が敢えて選択したことが重要な争点となっており、経済産業大臣がそれを是認したことの違法性を追及しています。
CO2の累積的排出量の削減という観点、2050年の時点で温室効果ガスを8割削減するというわが国の長期目標の実現という観点から、発電事業者は、直ちにこれらの石炭火力発電所の新増設計画を撤回するべきです。
当会は、原告・弁護団、そしてサポーターと共に、今、石炭火力の新設を認めることの意味を問い、引き続き法廷でも主張・立証を続け、大気汚染のない、気候危機に対応する社会の実現を目指して活動を続けます。
以上
[1] この26%という割合自体、気候変動対策の観点から過剰であり、見直す必要があります。
[2] 石炭発電所ウォッチのデータベース(https://sekitan.jp/plant-map/ja)等をもとに、当会試算。
[3] 電力広域的運営推進機関「2020年度供給計画の取りまとめ」(2020年3月)による。
[4] 2030年時点で、「高効率」でない石炭火力については66.4%の設備利用率(2019年度の全石炭火力発電所の設備利用率の平均)を想定し、「高効率」発電所については80%稼働を想定した場合。
[5] 神戸石炭訴訟 https://kobeclimatecase.jp/
横須賀石炭訴訟 https://yokosukaclimatecase.jp/
声明全文(PDF)