GENESIS松島計画 計画段階配慮書 に対する意見
神戸の石炭火力発電を考える会
私たち、神戸の石炭火力発電を考える会は、石炭火力発電所がもたらす大気汚染と温暖化への影響を看過すべきでないとして、地元神戸市で稼働中・建設中の石炭火力発電所の廃止を訴えてきた。温暖化による被害が現実の脅威となった現在、石炭火力発電所は一地域を超える問題となっている。石炭火力発電所新増設の廃止と既存発電所のフェーズアウトを求める立場から、意見を提出する。
1.本計画は、経済産業省の「フェードアウト」政策のもと廃止の対象となる石炭火力発電所を延命させるものであり、許されない。
2020年7月、経済産業大臣は非効率石炭火力のフェードアウトのための具体的な仕組みを構築すると発表した。本件の松島火力1号機、2号機(各50万kW)(1981年に稼動)は、旧式の超臨界圧(SC)の発電技術を採用しており、フェーズアウト対象の非効率石炭火力発電所に該当する。廃止されるはずの石炭火力発電所が「アップサイクル」の名のもとに延命されるようなことが認められれば、石炭火力発電所の総数が減らず、CO2排出量の削減が不可能となる。「フェードアウト」対象の非効率石炭火力発電所は、延命させず廃止しなければならない。
2.そもそも国の温暖化目標(2050年カーボンニュートラル、2030年までに2013年比46%減、さらに50%削減の高みに挑戦)を達成するためには、既存の老朽石炭火力発電が順次廃止しても不十分であるとされる。温暖化目標達成のために、本件発電所のような旧式かつ非効率火力発電所は、「アップサイクル」を名目に延命させるのではなく、真っ先に廃止されるべきものである。
2020年7月に公表された環境省「電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価結果について(2019年度)」においては、「現在の石炭火力発電の新増設計画16が全て実行され、ベースロード電源として運用されると、仮に既存の老朽石炭火力発電が順次廃止されたとしても、2030 年度の CO₂削減目標やエネルギーミックスに整合する石炭火力発電からの CO₂排出量(約 2.2 億 t-CO₂)を 5,000 万 t-CO₂程度超過する可能性がある」と指摘している。非効率石炭火力のフェーズアウトの必要性・緊急性は、さらに高まっており、松島火力発電所を含め、非効率石炭火力発電所を温存することは認められないと考える。
仮に、事業者が計画する「アップサイクル」が実現したとしても、天然ガス火力と比べて2倍を超えるCO2を排出する石炭火力発電所を温存することは、温暖化対策にかかる2030年目標、2050年目標との整合性という観点から、認められるものではない。
3.計画段階配慮書における問題点
①本事業計画は「2050年カーボンニュートラルを実現する一連の取組みの第一歩」と掲げるが、その実現可能性が示されていない。実現する見込みのない計画を受け入れることはできない。
計画段階配慮書によれば、新たにガス化設備を付加することで、発電効率を高めてCO2排出量を低減させるほか、「バイオマス、アンモニア等のカーボンフリー燃料の導入により、更なるCO2削減の実現を目指します。」などとされているが、2026年に運転開始される発電所において、どの時期から、どの程度、カーボンフリー燃料を導入しうるのか、一切記述がない。本事業は、現時点で全く見込みが立っていない“カーボンフリー燃料の導入、CCUS/カーボンリサイクルの導入”といった構想を口実に、非効率石炭火力発電所を温存させようとするものである。パリ協定の掲げる1.5℃(2℃)目標のみならず、非効率石炭火力フェーズアウト政策、温室効果ガス削減にかかる2030年目標、2050年目標に反するものである。
②複数案の検討では、大量のCO2、大気汚染物質を排出する石炭が妥当であるか、事業を実施しないことも含めて検討をすべきところ、意図的に行っておらず問題である。
環境アセスメントでは、重大な環境影響の回避・低減をはかるために複数案を検討するべきであり、環境省も、過去の石炭火力発電所環境アセスの計画段階配慮書に対する意見で、そのような趣旨の指摘をしている。とりわけ、脱炭素社会の実現、脱石炭火力が国際的に要請されている状況では、事業を実施しない案についても複数案として設定すべきである。
また環境影響評価法は、配慮書段階で複数案を設定することが原則であるとしており、仮に複数案を設定しない場合には、合理的な理由を示すことが求められている。しかし、配慮書で示されている理由は、事業者の想定した案しか検討するつもりがないかのように受け取れる。これは配慮書の趣旨を踏まえておらず、問題である。
③「アップサイクル」であることを理由として、大気質への影響とCO2排出量を配慮事項として選定しないとする判断は問題であり、正当化されない。
配慮書は、「新たに設置するガス化システムは最新の設備を導入し、既設の排煙脱硫装置及び集じん装置を流用することで、現状よりも排出量を低減することから配慮事項として選定しない。」(配慮書215頁)、「アップサイクルにより効率の向上を図り、発電電力量(排ガス)あたりの二酸化炭素排出量を低減することから、配慮事項として選定しない。」(配慮書216頁)としている。現実として大気汚染物質とCO2が排出されるにもかかわらず、「低減」させる予定であるから評価不要という論理は常識的に理解されえず、正当化されない。国(環境省)も「効果的な環境保全措置を講じる」ことと計画段階配慮事項の選定は関係ない、と指摘している[1] 。
④本計画の大気汚染物質の排出濃度は他地域の石炭火力発電所と比較してもかなり高く、地元地域の大気質への影響が懸念され、問題である。
配慮書15頁に記載されている 第2.2. 6-2表 ばい煙に関する事項によると、現状と比較して、将来において硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじんの排出濃度が低減する予定であることがわかる。しかし、他の超臨界圧(SC)発電所、高効率とされる超々臨界圧(USC)と比較しても、濃度が高く、汚染の度合いが高いことが分かる。
事業者は、他の地域に立地する石炭火力発電所については大気汚染物質の排出濃度を抑制しているにもかかわらず、本件事業の場合には、著しく排出濃度が高いという問題がある。より適切な大気汚染防止技術を採用するよう計画を変更するべきである。
以上。
[1] 環境省「神戸製鉄所火力発電所(仮称)設置計画に係る計画段階環境配慮書について」【一次質問】(環政評発第2006042号。平成27年1月13日)3頁は、本文に引用した文章に続き、温室効果ガス等を含めた7つの環境要素について、改めて計画段階配慮事項として選定するか否かの検討を行うことを事業者に求めている。
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