当会は、4月26日に神戸製鋼より発表された、長期脱炭素電源オークションにおける神戸発電所1-2号機の落札に際して、以下の声明を発表しました。また、神戸製鋼と環境保全協定を締結する神戸市、兵庫県に対しても要請を行いました。
【声明】神戸製鋼・神戸発電所アンモニア混焼は石炭火力の延命策
2030年までの脱石炭が必要不可欠
2024/05/08
神戸の石炭火力発電を考える会
神戸製鋼は4月26日、長期脱炭素電源オークションにおいて、コベルコパワー神戸が所有する神戸発電所1-2号機が落札されたと発表しました。これにより、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、神戸発電所1-2号機において、アンモニア20%を石炭と混焼する設備改修の実現が可能とされています。しかし、「長期脱炭素電源」とは名ばかりで、石炭火力におけるアンモニア混焼の実態は、石炭火力の延命策に過ぎず、温室効果ガスの削減効果もわずかです。地域における大気環境への影響、気候危機、1.5℃目標の実現に向けた取り組みとして、以下の点から適切な対策とはいえません。
1. アンモニア混焼は大気環境への影響増も懸念される
石炭火力発電所におけるアンモニア混焼は、窒素酸化物(NOx)の排出量を増加させる可能性が高いとされています(注1)。NOxは、酸性雨や光化学スモッグ、PM2.5の生成に寄与する大気汚染物質でもあります。神戸発電所1-4号機は、神戸市内最大の大気汚染物質の固定発生源であり、現在でも大量の大気汚染物質を排出しています。地域における大気環境への配慮を欠いた取り組みによって、市民の健康影響をさらに増やすことは許されません。
2.2030年までの石炭火力発電の廃止、国際合意に反する
石炭火力発電所は、大気汚染物質だけでなく、大量のCO2を排出するため、気候危機が深刻化し、1.5℃目標の実現に向けた炭素排出の余地が極めて限られていることが認識されています。国際的には、先進国は2030年までに石炭火力発電所の段階的な廃止の必要性が共有されています。G7気候・エネルギー・環境相会合(イタリア)では、CO2排出削減対策が講じられていない石炭火力発電(注2)を2035年までに段階的に廃止することで合意されました。アンモニア混焼や火力発電所の高効率化は、これらの目標達成には寄与せず、2030年までの早期に神戸発電所1-4号機の稼働停止が必要です。
3.アンモニア混焼は有効な排出削減策ではない
石炭火力発電所におけるアンモニア混焼は、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを使用することでCO2の排出抑制を図るとされています。しかし、現在使用されているアンモニアは化石燃料を改質したものであり、その製造時には大量のCO2が排出されます。そのため、ライフサイクルで見ると排出削減効果はほとんどありません。また、調達するアンモニアは、ブルー(CCS:炭素捕捉貯留)やグリーン(再エネ由来)も将来に想定しているとされていますが、混焼率が20%であれば、80%は石炭からの排出であり、1.5℃目標と整合する適切な気候変動対策とは言えません。
4.長期脱炭素電源オークション制度は“消費者負担による”石炭火力延命策
神戸発電所1-2号機のアンモニア混焼に活用された「長期脱炭素電源オークション制度」は、石炭火力の延命策を強化するものです。これにより、発電事業者は、アンモニア混焼のための設備改修における投資を20年間にわたって長期的な収入の保証を受けることができます。支援策の財源は、最終的には電気代を支払う消費者が負担する仕組みになっています。しかし、実質的な脱炭素につながらない政策による石炭火力の延命ではなく、脱化石燃料に資する省エネや再生可能エネルギーの普及に舵を切るべきです。
以上の点から、当会は、気候危機を回避するため、神戸製鋼に対してCO2排出削減の効果がないアンモニア混焼によって「脱炭素」を掲げるのではなく、2030年までの早期に脱石炭の実現へ貢献することを求めます。環境保全協定を締結する神戸市に対しては、CO2の排出削減に乏しいアンモニア混焼を認めず、神戸製鋼に対して早期に石炭火力の稼働を終了するよう要請することを求めます。国は、アンモニア混焼による石炭火力の延命策を早期に見直し、気候危機回避と1.5℃目標に見合った政策を立案するよう求めます。
以上
(注1)
電力中研のレポートでは混焼率20%で専焼時の約2倍となるとされています。これを抑えるための技術開発も行われているようですが、技術及びコストの面から、NOx対策がいつ実現するか(実現するのか否か)は不確実といわざるをえません。
https://criepi.denken.or.jp/press/journal/denkizemi/2021/210630.html
(注2)
CO2排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の定義については、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)では「発電所から排出されるCO2の90%程度を回収するような対策がとられていないもの」とされており、アンモニア混焼は、こうした定義に合致した取り組みとして評価することは困難です。
参考)
当社子会社における長期脱炭素電源オークションの結果について(神戸製鋼所)
https://www.kobelco.co.jp/releases/1214649_15541.html
容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2023年度) 別紙:落札電源一覧
Japan Beyond Coal 【ファクトシート】水素・アンモニア燃料 ─解決策にならない選択肢
https://beyond-coal.jp/beyond-coal/wp-content/uploads/2022/08/JBC_factsheet_06.pdf